クラレは2016年度入社式を開催した。
新入社員に対して、伊藤正明社長のあいさつは以下の通り。
入社おめでとうございます。
クラレグループに新しいメンバーを迎えることが出来て非常に嬉しく思います。
クラレグループを代表してご挨拶を申し上げます。
皆さんは、今日からクラレグループの一員として社会人生活をスタートいたしました。
大きな希望と若干の不安な気持ちを持って、ここに座っていることと思います。
そんな皆さんにこのような質問は如何かと思うのですが、チョッと聞いてみます。「努力は必ず報われる」という言葉をどう思いますか?YesかNoかという意味ですが……。
私の娘(今年社会人5年目です)が就職した後、私に「お父さん、努力は必ず報われるって言うけど、あれ私はウソやと思う」と言ってきました。
そこで私は『そうやな~「努力は報われることもある」が正しいかもね』と答えました。
と言うのは、学生時代は必ず答えがある問題を与えられて、その解き方を教わったり、まる暗記したりして覚え込みますね。そして、テストの際にもそんな問題が出されます。そうすると、一生懸命暗記したり、答えに早く辿り着くテクニックを磨いた人は良い成績が取れますね。たまたまミスしてテストの点数は低くても、必死で勉強したことは次のステップへの土台として必ず役立ってきたハズです。このように学生時代だと「努力は必ず報われる」と言い切っても良いことが多いように思います。
しかし、社会人は違います。当面の間、皆さんには答えの有る仕事が与えられると思いますが、やがては答えが有るかどうか分からない仕事を与えられることも出てきます。一生懸命頑張って、答えに辿り着ければ良いけれど、答えが無いと分かった時には出来るだけ早く目標を設定し直すか、新しい方策を打ち出して取り組みを改めるか、しなければなりません。こういった時には「努力は必ずしも報われない」ということになります。でも次の目標、新しい方策に取り組む過程では、前にやった努力が生きて来ることも多いものです。今度はそこで報われるかもしれない。
そういった事も踏まえて私は娘に「努力は報われることもある」が正しいかもと言ったのですが、同時に「でもね、努力しない人にはチャンスは来ないヨ」ということと、「努力は無駄になることは無い、必ずどこかで役に立つ時が来る」ということを併せて話しました。更に「人生に廻り道はあるけれど、無駄な人生というのは無い」「人生の途中で苦労したことは、必ずどこかで役に立つ時が来る。その時にした経験とかその時に出来た人脈がどこかで役立つことが必ずある」ということも、自分の経験を交えて話しました。
もう一度言います。
「努力は必ずしも報われるとは限らない。努力は報われることもある」
でも「努力しない人にはチャンスは来ない」
また「努力が無駄になることは無い」ということと
「人生に廻り道はあるけれど、無駄な人生、無駄な経験というのは無い」
ということを覚えておいて下さい。
では次にこれから皆さんが社会人生活を送る上での心構えについて、4つお話をします。
まず1番目は「よく聞く」ということです。
私は45歳から2年間、中国に駐在して衣料品縫製会社の設立と工場立ち上げをやりました。これは本当に苦労しましたが、一方で大変勉強になりました。私は入社以来20年間ポリエステル長繊維の技術者として新しい繊維の開発と生産管理の仕事をしていました。その後クラレトレーディングに出向して2年間経営企画の仕事をしました。そして45歳になって、縫製の「ほ」の字も知らないような状態で、縫製会社の設立と工場の立ち上げをやったのです。更には中国での会社設立はクラレグループでも初めての経験でしたので、とにかく皆さんに教えてもらうしかありません。中国のたくさんの役所・税関・銀行・電力会社や建築会社、そして縫製した製品を納めるお客様・ミシンメーカーさん・設備会社・社内の縫製担当者・コンサルタント会社など、周りの全ての方々に頭を下げて教えてもらいました。そしてその教えを実行してみて、問題にぶち当たると自分なりに考えて、それからまた教えてもらうという繰り返しでした。この経験を通して私は、知らないことを聞くのはまったく恥ずかしくなくなりました。また、率直に頭を下げて教えを請えば、大多数の人はそれに応えて、親切に教えてくれるということを学びました。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という言葉もあります。皆さんもこのことを心がけてください。
次に2番目は「仕事に取り掛かる前から、出来ないと言わない」ということです。
私は食べ物に関する子供の躾で、初めて出された食べ物は必ず一度は口にする、舐めるだけでも良いから味を見るように教えました。「お前たちは生まれてから何年も過ぎていないのだから、初めて食べる物の方が多いのだ。だから、お前たちのことを思って作ってくれた食事は、まず口に入れてみなさい!口に入れて自分に合わなければ、ゴメンナサイと言って、紙に吐き出しなさい。吐き出しても怒ったりしないから……」「口にする前からエエー!とかイヤだとか言うのではない」そう言って、少しずつ食べられる物を増やしていきました。
仕事も一緒です。皆さんに与えられる仕事は皆さんの能力や仕事量をみながら、上司・先輩が用意してくれるのです。それを自分が出来るとか出来ないとか判断できるだけの経験は皆さんにはないし、そんなことを考える必要は無いのです。兎に角、精一杯取り組んでみる。分からないことは周囲の皆さんに聞きながら、必死でやってみる、その姿勢が大事です。これは無理だと判断したら、上司・先輩が助けてくれます。或いは、もう少し他で経験を積んでからの方がよいとなれば、仕事の順序を入れ替えてくれます。また、あなた方がこの仕事に向いていないとなったら、配置転換も考えてくれるでしょう。でも、自分自身は与えられた仕事から逃げずに、精一杯に取り組む。言われた瞬間は大変な仕事だと思ったけど、少しやり始めたら意外と出来たという経験をすることが出来たら、しめたものです。言われた仕事はとにかく出来るだけ早く着手してみることが大事です。取り組む前から悩んで手を拱いていると、ドンドン大きな難しい仕事に見えてくるのです。
3番目は「失敗を隠すな。失敗から逃げるな」ということです。
数年前に長野県だったかと思いますが、ある高校の修学旅行で出発当日に予約したバスが来なかったために、取り止めになったということがニュース報道されました。担当者の手配忘れということだった様ですが、この担当者はどこかの段階で、手配を忘れていたことに気がついていたハズです。ところが上司や周りの人に相談することが出来ずに対策を取れないまま、ついに旅行当日を迎えたのではないかと私は思いました。
もし周囲に相談していれば、高校生の貴重な経験の機会をフイにすることが無いよう、普段はライバルのバス会社の協力をお願いしてでも、対策は取れただろうと思います。相談しなかったばかりに新聞・TVなどで大きく報道されてしまい、担当者はその会社に居れなくなったのではないかと私は推測しました。
皆さんもこれから仕事をして行く上で、沢山のエラー・失敗をすると思います。今まで十分な経験を積んでいないのですから、失敗することはある意味仕方がないこともあります。しかし、失敗した時にそれ以上に被害が拡大しないように、拡大を防ぐ対策を必死でやると同時に、出来るだけ早く上司・先輩に報告することが大切です。失敗を挽回する場面でも経験の少ない皆さんよりは、数多く失敗を経験してきた上司・先輩の方が早くて有効な対策案の知恵は沢山あるはずです。
もし失敗しても、それから逃げずに必死に挽回しようと頑張ったり、素直にアドバイスに耳を傾けて取り組んだりしている姿を見た上司や先輩は却って皆さんの姿勢を好感して、色々と教えてくれたり助けてくれたりするのです。そしてそんな事を通して、皆さんに対する信頼感が出来てくるのです。
4番目は「小さな仕事を大切に」ということです。
「そんな詰まらないことをするためにこの会社にはいったのではない」というようなことを言う若い人が居ました。しかしそれは大きな間違いです。
「小さな仕事もチャンと出来ない人に大きな仕事を頼むはずがないのです」
小さな仕事であっても誠実に取り組んでやり遂げる、この積み重ねの過程で信頼を勝ち取ることが出来れば、少しずつ大きな仕事を任せてもらえるようになるのです。初めは雑用と思われるような小さな仕事も多いでしょうが、決しておろそかにせずに取り組んで下さい。
4つの心構えをお話しました。
「よく聞く」ということ
「仕事に取り掛かる前から、出来ないと言わない」ということ
「失敗を隠すな。失敗から逃げるな」ということ
「小さな仕事を大切に」ということ
この4点を皆さん、肝に銘じて実践して頂きたいと思います。
最後にもう一つお話をしておきます。
我々は生活の糧を得るために働いていますが、これをもっと高いレベルで捉え直すと、我々は幸せになるために、クラレグループで働いているのだと思います。その会社で、病気であれ怪我であれ、不幸になるようなことが有ってはならないと思います。私はクラレグループを、そういうことが無い、そういうことが起こらない職場・会社にしたいと考えています。皆さんは入社したばかりなので、まずは自分が怪我をしないこと、健康を損ねないことが第一です。健康管理をしっかりやりながら、事業所での実習の間、大きく目を見開いて色々なことを見て頂きたい。
また、クラレはメーカーとして仕入れた原材料を反応させたり加工したりして製品に仕上げ、お客様に納入してお金と信頼を頂戴しています。そう言う意味で企業活動の一番大事な根本の生産活動を担う事業所で実習することは大変有意義だと思います。この実習を通して自分の目で見ることと自分の頭でよく考えることを通して、一日も早く立派なクラレパーソンとして自立できるよう頑張って下さい。
以上、皆さんの入社に際しての私の挨拶と激励の言葉と致します。