JSRは8月29日、全日本空輸(ANA)とSHCデザイン(神奈川県茅ケ崎市)が製作する「3Dプリント義足」を共同開発し、実用化に向け支援していくと発表した。
開発途上国では紛争や自然災害のほか、偏った食生活からくる糖尿病が原因で下肢を切断し、義足を必要としている患者が推定1700万人と多いものの、現在一般的な金属を用いた義足は単価30万~40万円と高価であり、購入できる人はわずかな状況だ。
また、日本を含む先進国でも、義足に使用されている金属の錆を敬遠して海辺に近寄れなかったり、温泉の浴場内で義足使用がかなわず不便な思いを余儀なくされるなど、義足歩行者の旅行には様々なハードルがある。空港の保安検査場では、義足の金属部品がセンサーに反応するため、義足歩行者は再度係員による触手検査を受けなければならない。
SHCデザインは、このような国内外の義足歩行者が抱えるトラブルやストレスを解決するため、2015年に3Dプリント義足という画期的な製品の開発をスタートさせた。JSRが開発した3Dプリンタ用素材「ファブリアルRシリーズ」を使用することで、実用化を目指していく。
この義足は、3種のプラスチック材料のみというシンプルな構成で、製造原価は一般的な義足の20~30%程度。金属を一切含まないため、従来の義足に比べ軽量という特徴を持っており、来年の販売を目指している。
SHCデザインはフィリピンで安価な義足をより多くの人に届けられるよう、国際協力機構(JICA)の委託を受け、事業展開のための調査を行っている。日本国内では旅行の際の心身の負担を軽減し、既存の義足では難しかった体験を可能にする「2本目の義足」としての事業展開を図っていく。
このSHCデザインのイノベーションに賛同し、ANAは義足歩行社員による検証や技術的アドバイス、空港における実証実験、空港でのサービス提供検証、SHCデザインの事業展開時の渡航支援などの協力を行うことで、より多くの顧客の快適な空の旅をサポートする。
また、JSRは慶應義塾大学SFC研究所ソーシャルファブリケーションラボと共同開発した、3Dプリント用フィラメントであるファブリアル・シリーズの提供を通じ、SHCデザインのチャレンジをサポートしていく。l