エラストマー・高機能材料両輪に
グローバルで事業を拡大 20年に売上高5000億円へ
日本ゼオンは2020年のありたい姿を「化学の力で未来を今日にするZEON」とし、具体的な数値目標として連結売上高5000億円を掲げている。その目標達成に向け、現在は14~16年度を対象期間とする中期経営計画「SZ―20フェーズⅡ」により、エラストマー素材事業(合成ゴム・合成ラテックス・化成品事業)と、高機能材料事業(化学品・情報材料・エナジー材料・医療器材事業)のそれぞれの強みを磨き上げ、両輪でグローバルに事業を拡大させることを基本戦略として、取り組みを推進しているところだ。
■エラストマー事業
SZ―20フェーズⅡでは、エラストマーの事業戦略として「成長市場へのグローバルな対応による強い事業のさらなる強化」を設定。具体的には「S―SBRの2拠点体制の確立」「ゼットポールの高耐熱性新製品の採用拡大」「バイオ合成ヒドリンゴムの上市」「手袋用NBRラテックス」「C5ケミカル事業の拡大戦略」を進めている。
S―SBRについては、徳山工場に続きシンガポール工場を建設し、4月から第2系列を稼働させたことで、2拠点体制を確立することができた。シンガポール工場は14年4月に年産3万5000tの第1系列が竣工。これに第2系列の同3万5000tが加わったことで、同工場の生産能力は同7万tとなった。
さらに、徳山工場の同5万5000tを加えると、同社のS―SBRは同12万5000tにまで拡大している。
この2工場について、同社では徳山工場を新製品の開発拠点として位置付け、差別化製品を生産、シンガポール工場に関しては需要増に対応し、量産品を中心に生産を行う拠点とするとの方向性を打ち出した。
一方、製品に関しては、非油展品は同社の従来品に対し、省燃費性の大幅改善が期待できる製品を主力化、油展品については他社に対して性能優位性がある既存品の拡販と、新製品を継続して投入していく戦略を示している。
ゼットポールの高耐熱性新製品は、これまで130℃前後だった耐熱性を150℃程度まで向上させたものだ。この結果、ガスケットやシールなどの寿命を2~3倍延ばすことが可能となり、成長が期待できる製品として採用の拡大を図っている。
バイオ合成ヒドリンゴムは、トヨタ自動車のバキュームセンシングホースに4月から採用された。ゴム全体の植物由来原料が4割弱になることと、一部品当たりのCO2を3tほど削減できる、環境負荷の低いゴムである。トヨタは、このゴムを高い耐油性と耐熱性が必要な特殊ゴム製部品であるエンジン・駆動系ホースに世界で初めて採用した。
トヨタでは、さらにブレーキ系ホースや燃料系ホースなどにも採用を拡大していく方針を示している。
手袋用NBRラテックスについては、市場が年率7%で成長しており、今後も同じような成長が続くと見られている。その中で、同社では医療用薄膜として欧州規格値を満たす製品を開発した。すでに最大手手袋メーカーで採用が決定するとともに、現在、複数社で評価実施中である。
同製品は、さらに架橋剤である酸化亜鉛の添加量を減らしても、同社従来品と同等の破断強度が得られることから、食品加工用にも展開しているところだ。
C5ケミカル事業については、世界の粘着テープ市場は年率5~6%の成長、世界の紙おむつ市場も年率6%の成長を続ける中で、同社のSISが使われ、拡大してきている。
これに対応するため能力増強を実施し、5月には水島工場の生産能力を年産4万2000tから同6万tに拡大した。
そのうち、独自製品である非対称SISは、エラスティックフィルムと粘着ラベルで採用され、使用量が拡大。フレキソについても予定通り、年明けから実機のテストが始まり、販売が可能になった。
それ以外にも保護フィルム、粘着テープ、ホットメルト粘接着でも使用が見込まれており、今後幅広い用途で採用が進んで行くことが期待されている。
■高機能材料事業
高機能材料事業については「重点3事業分野での研究加速による事業拡大」を事業セグメント別戦略として設定した。3事業分野とは、情報用部材・エナジー用部材・メディカルデバイスであるが、情報用部材は範囲が広いため、オプト用・実装用・電子用の3分野に分けている。
この中でオプト用の「ゼオノアフィルム」は今年度、需要に合わせて回復が見込まれている。というのは、50インチ以上のテレビの4K浸透率が今年度75%、18年度には100%になると見られる中で、大型高精細に強い同社フィルムの需要が拡大していくと考えられるからだ。
同時に、中小型に対しても、優れた光学特性、低吸湿・低透湿、高耐熱性、低アウトガスという特長を生かして展開していく方針である。
さらにゼオノアフィルムに関しては、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイに使うと、反射防止機能を持たせられることが分かったことから、この分野でも採用拡大を図っていく。
エナジー用部材については、80年代にシール材料の開発を始め、その後負極用バインダー・正極用バインダーを展開してきた。現在では自動車向けの製品が増え、10年に比べ15年は市場成長を大幅に上回って拡大した。
また、市場成長率の高い中国・韓国向けの販売が増加しており、10年比で中国向け売り上げは9・3倍(市場は6・4倍)、韓国向けは4・2倍(同3・3倍)と、市場の伸びを上回る売上増を達成した。
メディカルデバイスは主に循環器と消化器の2分野に分けられるが、特に今伸ばそうとしているのが循環器だ。
国内のFFR市場は年平均15・4%で成長すると予想されている中で、同社は3月に「冠血流予備量比(FFR)デバイス」を発売した。
これは、世界初の光センサー型で、精度が高い、すなわち圧測定誤差が非常に少なく、病変部通貨性が非常に良いのが特長だ。同社ではこうした新製品により、売上拡大を図っている。
また高機能素材として現在、同社が力を入れているのがスーパーグロース法を用いた「カーボンナノチューブ(CNT)」である。
同社のCNTは高アスペクト比・高純度・大表面積が特長で、徳山工場に昨年11月、量産設備を完成させ稼働を開始した。CNTを使用することで、従来にない機能や特徴を持つ新機能性材料、次世代デバイスなどへの応用が期待されている。
世界初の量産工場 徳山でCNT生産を開始
日本ゼオンは昨年11月、スーパーグロース(SG)法を用いたカーボンナノチューブ(CNT)=SGCNTの世界初の量産工場を徳山工場(山口県周南市)の敷地内に完成させ、稼働を開始した。
これにより、SGCNTをコアマテリアルとした革新的な複合材料、用途が広がると予想。
適用範囲が広く、エネルギーやエレクトロニクス、機能材料、構造材料など多岐に展開され、日本で大きな産業が創出されることが見込まれることから、同社ではSGCNTの量産を計画通り実施する。
SG法はNEDOプロジェクトの成果を基に、産業技術総合研究所が開発したもの。高速・大量合成が可能で、これにより得られるCNTは、従来と比較して、高アスペクト比、高純度、大表面積といった特長がある。
SG法の開発につながったNEDOプロジェクトは「ナノカーボン応用製品創製プロジェクト」(2003~05年度)。これを通じて産総研は、04年に同研究所の畠賢治博士らにより見出された、革新的なCNTの合成法であるSG法の基盤技術を開発した。
また、産総研と日本ゼオンは「カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」(06~10年度)で、CNTの量産技術開発を推進。さらに両者は09年度の経産省補正予算事業により、量産実証プラントの建設を開始し、11年からサンプル提供による技術普及活動を進めてきた。
こうした研究開発が、世界初のSGCNT量産工場の完成につながっている。
バイオ合成ゴムが採用 トヨタのエンジンホースに
日本ゼオンがトヨタ自動車・住友理工と共同開発したバイオ合成ゴムを使ったエンジン・駆動系ホースが、トヨタ車に採用された。
この合成ゴムはバイオヒドリンゴムで、高い耐油性と耐熱性が必要な特殊ゴム製部品に採用されるのは世界で初めて。
トヨタが国内で生産する車種のバキュームセンシングホースに5月から順次適用し、年内には国内生産の全車種に採用する予定。今後、ブレーキ系ホース、燃料系ホースなどの特殊ゴム部品にも採用拡大を目指す。
バイオヒドリンゴムは大気中のCO2を吸収しながら生長した植物を原料とすることで、従来の石油系ヒドリンゴムに比べ、製造から廃棄までのライフサイクルでCO2排出量を約20%抑制することができる。
一方、バキュームセンシングホースに求められる耐油性・耐熱性・耐久性については、植物由来原料を分子レベルで石油由来原料と結合させ、合成ゴムへ変換する技術など、様々な複合化技術を駆使することにより、従来と同等レベルを確保した。
さらに部品製造でも、従来の石油系ヒドリンゴムを用いた場合と同等の品質と量産性を確保し、市販車への採用を可能とした。
トヨタは昨年10月、持続可能な社会の実現に貢献するための新たなチャレンジとして「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表。この実現に向けた取り組みの一つとして、バイオヒドリンゴムを原料とした環境適応型のバキュームセンシングホースを採用した。
今後も、エコプラスチック・バイオ合成ゴムのさらなる適用部位拡大につながる技術開発・実用化を推進する方針だ。
シンガポールS―SBR第2系列が稼働
日本ゼオンのシンガポールの溶液重合法スチレンブタジエンゴム(S―SBR)製造プラント(年産3万5000t)の第1期に続き、第2期が完成し、4月に現地で竣工式を行った。
第2期の生産量は3万5000t、第1期の3万5000tと合わせ、合計7万t体制となる。
今後、試運転を経て、顧客評価を仰ぐとともに品質の作り込みと操業の安定化を進め、来年から本格生産を開始する予定。
第1期プラントでは4品番を徳山工場から移管し、昨年はフル生産・フル販売となり、順調に生産・販売を行っている。
同社では、S―SBRの二拠点体制を確立したことで、徳山工場を新製品開発拠点として位置付け、差別化製品を生産していく。
一方、シンガポール工場については、需要増に対応して量産品を中心に生産を行っていく方針である。[/hidepost]