アフターコロナインタビュー ~コロナ禍における技術・開発者の働き方~
公益社団法人高分子学会 平坂雅男事務局長
技術者の考える姿勢が問われる
「コロナ禍で情報科学を活用し、どう考え、どう整理していくが非常に重要になってくる」と語る高分子学会常務理事事務局長の平坂雅男氏に今回の新型コロナで研究や開発分野への変化などを尋ねた。
─新型コロナによる研究・開発現場への影響について。
一番の影響は在宅勤務により、研究者が現場で実験ができなったことです。その結果、研究開発が遅れる原因になってしまいました。
5月に緊急事態宣言が発令し、解除以降も、ほとんどの研究者が在宅勤務を取らざるをえない状況が続いています。この現場環境を今後どう対応していくのが課題になるのではないでしょうか。また、プラスの面を考慮すると、緊急事態宣言が発令した間、マーケットも遅れため、研究者は将来動向やリスク回避など考える時間が生まれました。
─アフターコロナで変わるものと変わらないものは。
日本の働き方は、働き方改革の一環として、仕事とプライベートのワークライフバランスをようやく取り組むようになりました。一方、ヨーロッパでは仕事もプライベートも大事にしており、ワークライフバランスが充実しています。今回の新型コロナで研究者にとって、ワークライフバランスをどう考えるかで働き方が変わってきます。ただ、新型コロナが終息し、普段通りの生活に戻ったとき、日々の仕事に追われてしまうために、仕事とプライベートの狭間をどう変化させていくかが重要になってきますね。
また、若い世代の研究者の考え方が変わってききます。在宅で出来る仕事と現場で出来る仕事をうまく切り替えながら行うことができるためです。今後、若い世代の研究者にとって、このような働き方が当たり前になってきます。
─今回の新型コロナで浮き彫りになった問題点は。
中国から始まった新型コロナウイルスの感染拡大でしたが、どう影響を及ぼすのか事前に予測できていたはずです。また、過去のインフルエンザなどの経験から学んだことが活かされていませんでした。刻々と変化する社会情勢を把握できていなかったのではないでしょうか。その結果、新型コロナで急に在宅勤務などの取り組みを行うなど、対応の遅さが目立ちました。
─技術者として今後必要になってくることは。
日本だけではなく世界的に生活に対する価値観が変わってきます。それに対してどのようなビジネスができるか、変化する価値観にどのような技術が影響を及ぼすかを考える必要があります。
新たな価値観は、誰もが持っていればいいという安心的価値より、むしろQOL(Quality of Life)で、その尺度は人によって違います。そのためコロナ禍でマーケットの分散が加速されるかもしれません。このような環境下でも、新たな技術が求められるでしょう。その際に、技術者としての価値観や軸が必要になってきます。最近、多くの若手研究者は、哲学がないと感じる時があります。企業に就職し日々の業務に追われる中でも、「ポリマーで新たな社会をどう実現するか」という基軸に立ち、考えるべきです。海外に目を向けると、海外の研究者は、ビジネス思考の研究者が多いことも確かですが、研究者としてどうあるべきかを考えている研究者もいます。日本の研究者は大学で知識を学び勉強はしますが、自分で考えていく力が弱いです。そこで、高分子学会では若手イノベーターを育成するための「次世代イノベーター育成講座」を開いています。科学的な考え方ももちろん、企業ではいかにビジネスにし、収益を上げるとともに、社会に貢献することが求められます。その過程を論理的に深く考えていく力がコロナ禍でより重要になってきますね。
次世代イノベーター育成講座では、少数で議論をするなかで考える力などを育成しています。
─今後、研究や開発分野に変化はありますか。
インフォマティクス、つまり情報科学をどう取り組んでいくかが重要です。例えば、バイオミメティクスは生物と工学を結びつける研究がありますが、生物学者と工学者は話がかみ合わないことがあります。そこをつなげるのが情報科学です。現在では、情報科学のツールを色々な先生方と開発し実装する取り組を行っています。コロナ禍で情報科学を活用し、どう考え、どう整理していくが非常に重要になってきます。在宅勤務していることは、ある意味、いいチャンスではないでしょうか。
─イノベーションや技術の在り方に変化はありますか。
以前から言われていますが、オープンイノベーションが挙げられます。ビジネスの世界においてタイムトゥマーケットを考慮し、いかに早く開発し、早く上市しなくては、企業として収益があげられません。そうなると、自社で一から作り製品化まで取り組んだほうがいいのか、それともネットワークを使い、いかに連携していくかがイノベーションのカギになります。新たな技術があり、その技術を我々が開発したほうがメリットなのか、外部とアライアンスし獲得したほうがメリットなのか、そこをちゃんと区分けし考えなくてはいけません。コロナ過で、自社の強みをさらに強くするという技術の有り方が変わってくるかもしれません。
─社内外に発信したいメッセージは。
目先の利便性にとらわれるのではなく、生活の価値観や環境、さらに社会の外部要因を認識した上で、また、社内の内部要因を加味し、、新しいテーマの設定していく。そのなかで、いかに自分のオリジナルの発想でビジネスをつくれるかが重要になってきます。
*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。