専門技術団体に訊く5 団体インタビュー
塩ビ工業・環境協会
平松謙事務局長 平松謙事務局長 内田陽一環境・広報部部長
樹脂窓のマテリアルリサイクル化加速へ
戦後まもなく普及し、70年以上の歴史をもつプラスチックであるポリ塩化ビニル(PVC、塩ビ)。長寿命、耐久性、防火性、保存性、省エネなどの各種特性を生かし、塩ビ製パイプなどの建材を始め、農業用フィルム、樹脂窓など様々な製品に塩ビ素材は使われている。塩ビの業界団体である塩ビ工業・環境協会(VEC、Vinyl Environmental Council)の平松謙事務局長との内田陽一環境・広報部部長に協会の成り立ちや事業活動、近年力を入れるマテリアルリサイクルへの取り組みなどについて話を聞いた。
◆VECの成り立ちと活動内容を教えてください。
VECの成り立ちは塩ビ工業が勃興してきた1950年代で、1953年に発足した塩化ビニール協会が母体になります。その後、1972年に塩化ビニール協会と塩ビモノマー協議会が合併し塩化ビニール工業協会を発足し、1987年に塩化ビニル工業協会に名称を変更しました。
ただ、1990年代後半あたりは、塩ビが「ダイオキシン生成の元凶」と扱われた時期がありました。しかし、それは誤解だったのですが、業界では環境問題への重点対応にあたるため、1998年に塩ビ環境協会を発足し、同年には塩化ビニル工業協会と塩ビ環境協会が合併したのが塩ビ工業・環境協会(VEC)になります。
VECの事業活動は、①塩化ビニル工業に関する環境、保安、安全に係わる諸問題の調査・研究並びに対策及びその推進。②塩化ビニルの再資源化に係わる諸問題の調査・研究並びに対策及びその推進。③塩化ビニルに関する正しい理解の普及と啓発。④塩化ビニル工業に関する生産、技術、流通、消費等に係わる調査・研究。⑤これら活動を円滑に実施するための内外関係諸機関との交流及び協力なども含まれます。
このほか、VECはPVC(塩ビ素材)の特長を生かし、魅力ある製品を公募し表彰する「PVCアワード」を2年に1度開催しています。同アワードはもともと2011年に「塩ビものづくりコンテスト」として開始し、途中で名称を変えて開催してきました。
今年は「生活を豊かにするPVC製品」をテーマとして7月1日~9月30日まで作品を募集しています。募集対象は軟質塩ビ製品から硬質塩ビ製品まで幅広く、大賞の作品は100万円(1点)、優秀賞は10万円(3点まで)、特別賞は5万円(4点まで)、入賞は2万円(5点まで)を贈呈します。
2年前に開催した前回は115点の応募があり、残念ながら大賞の受賞はありませんでしたが、準大賞として1点(50万円)、優秀賞を5点、将来性のある審査員賞を2点選出しました。審査員賞の中には、高校生が提案したAED(自動体外式除細動器)で用いる塩ビ製シートがありました。
これはAEDを使う際、塩ビ製シートを人の体に置き、女性の肌に直接触れにくくするという面白いアイデアから生まれたものです。
対象作品は発売以内5年のものか、商品化されていなくても商品化が計画されている作品も応募可能です。現在、VECではHPなどを通じて、多くの募集を呼びかけているところです。
◆国内外の塩ビ市場の現状と課題について。
現在、世界の塩ビ市場は年率3%程度の成長が続いています。新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない状況にあるものの、米国やインドなど海外はインフラ・建材関連用品の需要が好調です。
対して、国内の塩ビ市場はフィルムやシートなど飛沫感染対策用品や、医療用手袋など衛生関連用品の分野でもこれまでにない活況を呈していますが、国内はここ数年、インフラ整備が一段落し、少子高齢化の影響も重なり、国内出荷が100万tで、輸出が60万tレベルで推移しています。
輸出については、中国に替わって、最近はインドへの輸出が伸びています。塩ビは需要の6~7割がパイプなど建材用途です。国が発展していく上で、最初に使われるのがインフラで使われる建材などの塩ビ製品だと思います。人口が伸びていて、かつインフラ投資が盛んな国では今後も塩ビの需要の伸びが期待されています。
一方、塩ビ業界の課題を挙げると、ほかのプラスチック業界と同様に、まず廃プラスチック問題があります。ただ、塩ビは石油由来の成分が全体の4割程度(残り6割は塩)であったり、製造時のエネルギー消費が少なかったり、リサイクル性に優れた素材であったりと、プラスチックの素材の中でも、環境に配慮した素材であり、SDGsに適した素材であるといえます。この点はVECのHPでも重点的にアピールしています。
◆特に力を入れている取り組みを教えてください。
まずは、海洋プラスチック問題への取り組みですね。また、SDGsの観点でいえば、低炭素化社会・CO2削減への貢献に向けて、LCA(ライフサイクル・アセスメント)を用いた塩ビ製品の評価や、LCAを実施するための基礎データのLCI(ライフサイクルインベントリ)を整備し、提供する取り組みにも力を入れています。
LCAやLCIでいえば、VECのHPにおいて、ポリプロピレン(PP)やポリスチレン(PS)などと並んで塩ビを製造する際のLCIデータや、塩ビサッシを用いた樹脂窓に関するLCAと使用段階の温室効果ガス排出量の評価結果などを公開しています。今後もLCAやLCIの評価を適示更新したいと考えています。
◆リサイクルの取り組みについて。
マテリアルリサイクルを含めたリサイクルに対する取り組みは、ダイオキシンなどの環境問題も背景として、塩ビは他の素材に比べると一足先に進めてきた感はあります。
例えば、塩ビ管・継手のリサイクルでは、塩化ビニル管・継手協会と協力し、1998年から全国に受入窓口(現在88ヵ所)を設け、マテリアルリサイクル(パイプからパイプへ)の仕組みを作りリサイクルを推進してきました。
また、農業用ビニルハウスに使われる塩ビ製の農業用フィルムについても、全国的に使用済の農業用フィルムを回収処理しています。処理したフィルム再生材は、床材の中間層に使う原料などに再生利用されており、リサイクル量は排出量の8割程度になり、高い水準を誇っています。
マテリアルリサイクルでは、樹脂窓への取り組みが今後カギを握るとみています。樹脂窓とは断熱性に優れる塩ビの環境性能を生かし、窓のフレームが樹脂でできた窓のことをいいますが、現在は国内の新規戸建住宅着工戸数の2割(アルミと塩ビ樹脂との複合窓を含めると85%程度)が樹脂窓とされ、特に寒冷地の北海道の住宅はほぼ樹脂窓といわれています。
一方、樹脂窓は使用開始から40年が経過し、樹脂窓の廃材が今後増えるとみられています。VECでは、使用済み樹脂窓への対処について、2019年8月に東京大学清家剛教授を委員長とする「樹脂窓リサイクル検討委員会」を立ち上げました。
これに加えてVECは、塩ビ建材のマテリアルフローを明らかにすることを目標とする塩ビ建材リサイクル合同WG(ワーキンググループ)活動の一環として、清家教授の研究室とともに「樹脂窓製造に関する塩ビ樹脂のフローの把握」などを目的に樹脂窓メーカーにアンケート調査を実施し、今年4月に公開したところです。
その中で、樹脂窓のマテリアルリサイクルを進めるには、普及が進んでいないオフィスや病院、集合住宅などのビル系建物において樹脂窓の採用を増やすための取り組みがカギを握ります。そこで、VECでは一般的なアルミ窓に比べ、樹脂窓の断熱効果が高いことを実証するための実験を行っており、一般的なアルミ窓を採用した住宅よりも樹脂窓を用いた住宅のほうが、数10%程度省電力になるということがわかってきました。
それだけでも「2050年カーボンニュートラル実現」に向けて、少しでも貢献できるのではないかと思っています。
◆今年度の主な事業活動を教えてください。
VECには、リサイクルWG(ワーキンググループ)、広報WG、海外WG、建材WG、技術WGなどの各WGがあり、それぞれ活動を行っていますが、昨年度はコロナで各WGの活動はそのほとんどを、WEBを使った活動に切り替えました。今年度もその状況は変えず、WEBを中心にした活動を実施していく予定です。
また、HPを使った情報発信にもっと注力していきたいと考えています。HPは昨年、リニューアルし、スマホでも見やすくしました。HPでは塩ビの環境特性や統計資料はもちろん、「塩ビの新発見!?」などの動画コンテンツを作成し紹介しています。また、動画コンテンツでは、当協会と日本化学工業協会、プラスチック工業連盟など5団体が共同事務局をつとめる海洋プラスチック問題対応協議会(JalME)が中学理科教育用映像教材として制作し、発行した「プラスチックとわたしたちの暮らしⅡ」をHPで公開しています。そして今年5月には抗ウイルス性建材(壁紙、床材、手すり)を特集した専用サイトをHPに掲載したので、皆さんに見ていただければうれしいです。
今後もHPを通じ、広くVECの活動を知ってもらう活動にも力を入れていきたいと考えています。
*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
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