施設探訪 BASFジャパン㈱クリエーションセンター 小矢畑崇デザインマネージャー
お客様の課題解決につながるお手伝いを
ドイツに本社を置く世界最大規模の総合化学メーカーのBASF(ビーエーエスエフ)の日本法人BASFジャパン㈱(東京都中央区、石田博基社長)。同社のパフォーマンスマテリアルズ事業部は、ポリアミド(PA)樹脂「Ultramid®」や熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)「Elastollan®」など高機能な樹脂関連製品とサービスを提供している。また、神奈川県横浜市にある横浜事業所では、日本の顧客とともにコンセプトやアイデアを創造的なソリューションへ生み出すクリエーションセンターがある。同センターでデザインマネージャーを務める小矢畑崇氏にクリエーションセンターの話を伺いました。
──小矢畑さんのご経歴を教えてください。
BASFに入社したのは2017年です。それ以前は商用車メーカーで車内の内装デザインの仕事に携わっていました。具体的には、内装の色や素材、質感を決めたり、座席シートの形状デザインや生地の選定などをしていました。色や素材、質感にまつわるデザイン業務は楽しかったですし、自分に向いていると思いました。そうしたなかでBASFと縁があり、入社を決めました。
私が担当しているデザインマネージャーの仕事を一言でいうのは難しいのですが、デザインを絡めた弊社素材のプロモーション活動とお客様ごとに素材を軸にしたデザインプロジェクトを推進しています。
──クリエーションセンターの成り立ちは。
横浜事業所には、パフォーマンスマテリアルズ事業部のセールススタッフや技術スタッフが日常業務にあたるだけではなくて、事業所内には射出成形機や各種試験機を多数保有し、物性の試験を行うことができる場所があったり、独自のCAEツールを用いた設計や解析など技術的なサポートを行う部署があります。
さらに、横浜事業所では、2019年にお客様とともにコンセプトやアイデアを創造的なソリューションへ生み出す場所として、それまでのデザインファブリークを改組して「クリエーションセンター」を開設しました。
もともとデザインファブリークは、2006年にドイツの本社(ルートヴィッヒスハーフェン)に誕生して以降、日本の横浜(2014年開設)、中国の上海(2016年開設)の3拠点で、素材やデザインに関する用途開発の促進ならびにアイデアをお客様へ提供してきました。
そしてデザインファブリークの役割をさらに広範囲にするため、2019年に名称をクリエーションセンターに改組したのがクリエーションセンターの始まりになります。現在、クリエーションセンターはこの日本(横浜)のほかに、ドイツ(ルートヴィッヒスハーフェン)や中国(上海)、そしてインド(ムンバイ)の4拠点にあります。
それぞれの拠点では、ドイツでは3~4名、中国で2名、インドで2名(うち1名は研修中)が専任のスタッフとして働いていますし、横浜では私が専任として働いています。小さい所帯ですが、各拠点のクリーションセンターがお客様の課題解決につながるためのお手伝いをしています。
そのなかで、日本のクリエーションセンターはBASFのグローバルネットワークを活用して、主にBASFのパフォーマンスマテリアルズ事業部が扱う高機能な樹脂製品について各国から素材サンプルや試作品、自動車業界やスポーツ業界などでの採用された製品事例、デモキットなどを収集し、訪問者が素材に触れられる環境を整えています。
──日本のクリエーションセンターに求められている役割を挙げると。
世界規模でみると、BASF全体に占める日本の売上高は数%になります。しかし、日本には世界に名だたる企業が数多くあります。そうした企業に対して、まずはBASFのブランドを知ってもらう、そしてBASFの素材を使ってもらう。こうした取り組みを通じBASFの価値を高めていくことがクリエーションセンターの最終的な目標になります。
そうした意味でいえば、日本のクリエーションセンターに求められているのは、お客様との新たなプロジェクトの推進はもちろん、すでにBASFの素材をお使いただいているお客様へのサポートも重要になります。また最近はサステナブルな素材をお客様に提案することも大切な役割になっています。
──クリーションセンターを訪問する場合の手続きはありますか?
コロナ禍ということもあり、お客様が予約なしで訪れることはできないのですが、現在はご縁のあったお客様や名刺交換をさせていただいたお客様を中心にお越しいただいています。センターでは当社のセールススタッフや技術スタッフもお客様もこのセンターで打ち合わせをしますが、私がお話をさせていただくのは主に企業で働いているデザイナーさんが多いですね。
──打ち合わせではどんなお話を?
カジュアルな雰囲気で、センター内を歩いて見て回って素材サンプルを手に取り感触を確かめながら、そのサンプルの裏話をしたり、一般的なデザインの話や、最近話題のサステナブルにまつわる話、お客様の将来に向けた開発の話などをしたりしますね。
例えば、自動車業界のお客様でしたら、いくつか製品のスケッチを拝見したうえで、お客様からはニーズにフィットするような素材を提案してほしいといったご希望もあります。こうしたご要望に対し、BASFで過去に提供した事例の紹介や、他の業界の動向を紹介したり、新しい使いみちを一緒に考えたりしています。
──クリエーションセンターには3つのキーワードがあるそうですね。
クリエーションセンターが提供する価値を定義すると、①DISCOVER(発見する)②UNDERSTAND(理解する)③CREATE(創造する)の3つの言葉になります。
まず、DISCOVERには、触る、探索する、発見する、気づく、ひらめく、調べる、いろんな言葉が該当すると思います。センターに来ていただきいろんなものに触ってみて、なるほどそうかと思ってもらえたり、気づいてもらえたりしたらいいと思います。
UNDERSTANDは、当社はお客様のこと、そしてお客様は当社のことを相互に理解するという意味になります。社会や環境の変化、さらにお客様が求めるニーズの変化に対して、お客様と対話を重ねる中でお客様のことを理解しつつ、お客様も当社の理解を深めてほしいと思っています。そのために、打ち合わせもそうですが、小さなディスカッションやアイデア出し、私が企画する体験型ワークショップなどを通じ、お客様と当社の相互理解を深める活動を行っています。
ワークショップでは特定のテーマに絞り、内容を掘り下げることでお互いに相互理解を深めることが目的です。お客様のニーズを知ることができますし、お客様も当社の製品の理解を深めることができる、双方にとってたくさんの気づきがあります。その意味においてワークショップが果たす役割も大きいと思っています。
3つ目のCREATEは、かたちにする、創造する、試作するという意味になります。開発の初期段階においては、これまで使われたことのない素材や、用途であっても検討材料の候補として、こういう素材がこんな風に使えるのではないかといった提案を行うことがあります。お客様に対して、そうした可能性をわかりやすく伝えるために、まずはかたちにして示すことも大切です。
その一例として、2020年には㈱ZMP(東京都文京区)と㈱ビー・アンド・プラス(埼玉県比企郡)と一緒に自律型ワイヤレス充電を可能にするコンセプトロボット「MobiPOWER(モビパワー)」を製作しました。これからもこうした取り組みを続けていきたいです。
──サステナブルな取り組みについて。
最近は自動車を始め、家具や家電、建材さまざまな業界で『サステナブルな素材を紹介してください』という依頼が増えています。そうした依頼に対して、まず技術者やセールスであれば、素材の名称と物性を明記した資料を示してプレゼンテーションしますよね。それだとサステナブルな素材を探している企業の担当者には響かないことがあります。
そこでお客様がサステナブルな製品を実現していくための考え方やアプローチに対する準備や提案をお手伝いしていくことが、私のようなデザインのバックグラウンドを持つ者の役割だと感じています。
つまり、デザイナーであったり、製品企画や開発したりする人に対してBASFが持つ素材の魅力を視覚的に訴えたりわかりやすくかみ砕いて説明することで、素材の価値を掘り起こすことも私の大切な仕事だと思っています。
──仕事をしていて楽しいと思う瞬間は?
やりがいを感じる瞬間はたくさんあるのですが、最近ですとデザイナーさんとの打ち合わせで、初対面とは思えないほど時間を忘れて、いろいろな話で盛り上がって話をしてしまったときです。
例えば、自動車を作るとすると、材料部や技術部の人とデザイナーの人では同じ会社であっても隔たりがあります。デザイナーとしてはこういうものを作りたいと思っても、実際はスペックやコストを考えたり、安全性はどうなのかといった問題を一つひとつクリアしないといけません。ましてや期限があるプロジェクトだとどこまで筋を通せるか。
そうした時に、我々がデザイナー目線で素材のご提案をさせていただくことで、少しでも開発スピードを速めたり、素材を選ぶ際の気づきやヒントになっていただけたらいいと思います。
また、他の素材メーカーのデザイナーの方々との出会いも楽しんでやっています。2021年12月に出展した高機能プラスチック展では、ある化学メーカーのデザイナーさんが当社のブースにお越しになり、クリエーションセンターの活動やアップサイクルの活動にも関心を持ってくださいました。こうした横のつながりといいますか、同業他社のデザイナーの方々とも新たなことにチャレンジしていけると楽しいかなと思っています。
*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
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