活躍するリケジョ009 化学物質評価研究機構
高分子技術部 技術三課主任 岩瀬由佳さん
◆現在担当されている仕事について教えてください。
高分子技術部門に所属し、顧客から依頼された製品やサンプルの評価業務を行っています。
具体的には、引張試験のような物性試験や化学分析試験を基本とし、新規開発製品の配合設計などのレシピの開発、ゴム練りや樹脂の射出成形などの加工試験など非常に多岐に渡った評価試験をしております。また、実際に使用されている製品にトラブルがあった場合には、事故原因の究明や事故発生時の劣化状況の再現試験も行っており、製品の耐久性や寿命予測などの評価も行っています。製品のJIS認証業務も実施しており、高分子材料の川上から川下まで網羅しているような仕事を行っています。
また、自主研究も推奨されており、ゴムのオゾン劣化に関する研究、さらには学会発表などにも積極的に取り組んでいます。
◆ゴムのオゾン劣化の研究内容は。
新規のオゾン劣化試験の試験方法の開発に取り組んでおり、開発した試験方法をISOの国際標準にするために国際標準化活動に尽力しています。
ゴムのオゾン劣化は通常温度が高い方が劣化速度が速いと言われていますが、ある製品の実験で低温で使われた製品の方が早いことがあり、疑問を抱いたのが研究を始めたきっかけです。
研究を進めていくと、ゴムに含まれる老化防止剤などの材料の析出挙動や周囲の外的環境によって低温の方が劣化が進みやすい現象が起こることと、高湿度下では低湿度下とは全く異なる劣化現象が起きることを発見しました。
これを学会で発表したところ、湿度を条件に加えたオゾン劣化試験の国際標準化を進めていこうという活動につながりました。
日本ゴム工業会とISO/TC45国内審議委員会と共に国際会議で提案を行い、今年中には規格として認められる予定です。
さらに、研究過程でゴムのオゾン劣化をより正しく評価することが可能な試験方法を見出し、追加の試験方法の開発にも着手しています。こちらもISOの国際基準として提案が済んでおり、各国からも前向きの評価を頂いています。
◆現在の仕事のやりがいを教えてください。
弊機構は総合評価機関ですので、分析用カラム以外に自社製品がないのですが、その一方、試験を通じて様々な製品に携わる事ができます。
依頼ごとに、試験の目的や製品の使用方法も違いますので、毎回製品の使用用途を確認し、使用される材料にも幅広い知見が要求されます。試験方法も都度工夫が必要で、オリジナルな試験内容を組むケースも多く、報告書も複雑になるので非常に大変だと感じる事もあります。
ただ、製品に関する報告書を顧客に提出した際に、非常に喜んでくれた時や、街中で自分が評価した製品が安全に使われている場面を見た時には、分析を通じて世の中に貢献することができたと感じています。
◆仕事をする上で、心がけていることを教えて下さい。
依頼を頂いた時に、早く結果を出すことを心がけています。そのために、あらかじめ材料の物性や特性、実施する分析手法の利点欠点について十分に事前準備を徹底しています。最初の仮説設定がその後の効率化を図る上で最も重要だと考えています。
また、研究の際に仮説通りの結果が出ない場合でも、もしかしたら新規に明らかになった現象かもしれないと捉えることができるようになり、個々のデータを蔑ろにせずに大切に注意深く解釈するように心掛けてもいます。
ゴムのオゾン劣化の研究も、当初失敗だと考えていた事象を大切に扱った事により、試験方法の開発に繋げる事ができました。
◆理系の道に進んだきっかけや、学生時代どのような学問をされていたのか、教えてください。
幼少の頃から化学実験が好きで、将来は化学者になりたいと思っていました。高校時代に進路選択をする際に、ノーベル賞を受賞した田中耕一先生が「失敗から新たな分析技術を見つけ出した」と語られていたことから、分析分野に興味を抱きました。
大学では理学部化学科に進学し、最終的には生化学分野を専攻し、たんぱく質やペプチドの構造を網羅的に解析するための分析手法について研究しました。
学生でしたが、その際に開発した装置で特許を取得する事もでき、非常に良い経験を積むことができました。
◆現在のお仕事を選んだ理由を教えてください。
大学で分析を勉強し、純粋に楽しいと感じた事に加えて、分析手法を開発したいと思い、当機構を選びました。様々な物質を対象に分析している事や分析に必要なカラムの質も高い事などに魅力を感じました。
◆入構されてからの印象や現在の職場環境について教えて下さい。
若いうちから、本当に多くの機会をくれる職場だと思います。学会発表を利用して、当機構を宣伝していくという雰囲気もあり、自身のやる気とデータを収集する事ができれば、入構2、3年目でも外部の学会で発表する機会を得ることができます。
職場環境も非常に良好で、ゴルフやスキーなどの部活動も盛んです。部署や年齢の垣根を超えて仲良くなれる環境で、開発で行き詰まった時には上長に気兼ねなく相談することもできています。他部署の同僚からの知見を集めて開発に生かすようなこともあります。
◆今後、どのような取り組みをしていきたいですか?
人体への安全性、環境への保全性に関する分析技術の開発に少しずつ手をつけていきたいです。
今後は製品を作製したら終わりではなく、その後の使用により、人体や環境への影響まで評価が必要な時代になると考えています。
また、新しい試験規格を世の中で使用してもらうためには、技術だけではなく、アピール能力や必要とされているものをリサーチする能力も必要になるので、分かりやすい発表やニーズ、時代感を取り入れるために、視野を広げていく努力を今後も続けたいです。
◆お休みの日に何をされているのか、教えてください。
中学と大学では演劇部に所属しており、大学時代は毎週小劇場に通うくらい熱中していました。今でも定期的に演劇鑑賞をしており、「劇団☆新感線」がお気に入りの劇団で年2回は必ず鑑賞しています。他にも気になる俳優の方が出演すると聞けば、小劇場にも足を運んでいます。
演劇はテレビと違って、その瞬間、演劇だけに集中して見ることができるので、話に没頭でき、臨場感やワクワク感を誘ってくれるのが魅力です。
また、会社の同僚や友人たちとゴルフをしていることも多いです。100打数を切った経験もあるので、今後はコンスタントに100切りができるよう頑張りたいです。
*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。