技術・開発者インタビュー ポリプラ・エボニック
製品開発・研究開発員 落合拓哉
ポリプラ・エボニック(本社東京、金井産(かないただし)社長)はあらゆる自動車のサーマルマネージメントに貢献する樹脂チューブに注力する。ドイツの親会社エボニックが提供するポリアミド(PA)樹脂には、「ベスタミド Lグレード(PA12)」、「ベスタミド Eグレード(熱可塑性ポリアミドエラストマー)」、「ベスタミド Dグレード(PA612)」などがある。ポリプラ・エボニックはドイツから輸入したそれらをカスタマイズすることもあり、カスタマイズ品は「ダイアミド」シリーズとして国内企業へ提案している。最近では、電気自動車の普及が加速するなか、電動化による冷却配管の軽量化ニーズの高まりを受け、力を入れているのが冷却配管用樹脂チューブだ。同社テクニカルセンター(兵庫県姫路市網干区)の製品開発・研究開発員の落合拓哉氏に注力する冷却配管用樹脂チューブについて尋ねた。
◆冷却配管用の市場で注力する製品について。
落合 注力する製品のひとつにMLT8000シリーズがあります。当社では、PA12(ベスタミド・ダイアミド)の単層チューブを冷却配管向けに提案していますが、単層チューブの場合、高温の水を流してしまうと加水分解により劣化してしまうという弱点がありました。MLT8000シリーズは、冷却用配管用に開発した樹脂チューブであり、内層にPPを配した3層で構成する多層チューブです。MLT8000シリーズには3つのバリエーションがあり、外層に使用するPAがそれぞれ異なります。MLT8000.1にはPA612が使われています。MLT8000.2にはPA12が、MLT8000.3には熱可塑性ポリアミドエラストマーが使われており、軟らかいチューブを求めているお客様に対してご提案しています。使用する場所は、ベントライン向け冷却配管やリキッドライン向け冷却配管、バッテリー向け冷却配管などがあります。それぞれお客様の要望に合わせて最適なチューブを提案しています。
MLT8000は、実際に評価していただくとわかりますが、内層がPPであるため、耐加水分解性に優れています。また外層がPAであるため、強靱な機械特性を有しているのも特長です。押出加工ができるため、大量に作れ、コストメリットを出すことが出来ます。
電気自動車などが普及することで、MLT8000シリーズは様々な場所で使っていただけると考えています。
◆冷却配管用に力を入れている理由は。
落合 親会社エボニックは、自動車向けの燃料配管システムについて、非常に多くの知見があります。その知見を活かし、樹脂チューブによるサーマルマネージメントへの貢献を重要視しています。サーマルマネージメントは全ての自動車にとって重要です。内燃式のエンジンの周りやラジエーターでの熱交換など、あらゆる場所で冷却配管が必要とされます。
当社では全ての製品群で自動車に限らず、様々な市場に対し、グレードを開発しています。とくに日本では、一般的なグレードを使っていただくだけでなく、必要に応じてお客様ごとの要求に合わせてコンパウンドした、カスタマイズグレードを提供しています。それが当社の特徴の一つです。
今後、電気自動車が普及することで、熱と流体のマネイジメントシステムが複雑化していきます。ハイブリット車や電気自動車は内燃機関の自動車に比べバッテリーやインバータ、コンバータなどの電気・電子部品が増えています。その結果、それらを熱から守るために、効率的に冷却することがますます求められてきます。一方で、冷却配管が増えることによって車体重量は増加し、燃費・電費につながります。当社は流体をデリバリーするこのような冷却配管の樹脂化による軽量化に貢献していくことを市場にPRしていきます。
◆冷却配管用樹脂チューブ(PA12)の優位性とは。
落合 冷却配管用の材料は現状、アルミとゴムが多く使われています。樹脂を用いた配管の場合、PA12を代表とするPAを使用した単層チューブや、内層にポリプロピレン(PP)を使用した3層構造の多層チューブが使われています。PAなどの樹脂を使用することで、アルミとゴムの複合配管と比較して半分近い軽量化が見込めます。また、バッテリーを搭載した電気自動車でも、樹脂チューブを使用して軽量化することができます。その結果、航続距離が伸び、電力消費量の低減につながります。
また、冷却配管は冷却効率のために、配管の外径が18ミリなどの大口径となることが多く、PA12はこのような大口径のチューブも押出加工が可能です。さらにPA12は曲げ加工がしやすく、耐薬品性にも優れています。そのほか、PA12などが使用されている樹脂製のクイックコネクタとの締結性に優れており、アセンブリ加工が簡単にできるのもメリットです。樹脂チューブは、単純に材料コストだけを比較すると高いと思われがちですが、チューブにする際のプロセスコストやアセンブリコストなどトータルで考えていただけるとコスト削減につながると考えています。
◆今回新たに東レと共同開発した「冷却配管用多層樹脂チューブ」について。
落合 東レ様との開発は順調でした。今回リリースした冷却配管用多層樹脂チューブはMLT8000とは違う、新しいタイプの冷却配管用多層樹脂チューブです。MLT8000の内層にはPPを使用していますが、このたび、新たに内層にポリフェニレンサルファイド(PPS)を使用した冷却配管用多層樹脂チューブ構成の開発を行いました。このチューブは東レ様と共同開発したチューブであり、3層の構成になっています。 最外層は当社のダイアミド(PA12)、最内層は東レ様のトレリナ(PPS)です。接着層には今回新たに開発した材料を使用しています。元々、PA12とPPSは接着しない材料のため多層化にあたっては接着層用の材料の開発が必要でした。そこで当社が今まで培ってきたPA12の技術と、東レ様が培ってきたPPSの技術とポリマーアロイ技術を活かし、PAとPPSの接着を可能とする新規の接着層用の材料を開発しました。
◆新製品の他社との差別化を図るポイントについて。
落合 PPSは耐熱性・耐加水分解性に優れた材料です。PPよりも耐熱性が高いため、内層をPPSにすることで、130℃付近の高温環境下でも使用できます。また従来のMLT8000はコスト的には優れているものの耐熱性などの問題により、比較的低温の冷却水が流れる配管に採用が限られていましたが、PPSは耐加水分解性にも優れているため、この問題も解決できます。その結果、この開発した冷却配管用多層樹脂チューブ1種類で様々な場所に使えるようになります。
さらに、PPSは冷却水に対してのイオン溶出が少ないという特性があります。たとえば、燃料電池車でPPSの冷却配管用多層樹脂チューブを使って頂くと、FCスタック(燃料電池スタック)に対し、イオンが溶出していない水で冷やすことができるため、発電効率を下げません。
低イオン溶出性を活かし、当社では電気自動車や燃料電池自動車向けの冷却配管などへの採用も目指しています。また今後の展開として、自動車に限らず、産業機械などでも使って頂けたらと思っています。
その他、コルゲート(蛇腹)成形に関しても、MLT8000シリーズは高温環境下での使用を推奨していませんでしたが、開発した冷却配管用多層樹脂チューブは、そのような状況での使用にも対応できます。一般的な樹脂チューブ押出装置で押出成形が可能です。そのため、強靭な機械特性を損なうことなく様々な形状での生産に対応できます。
◆今後の販売戦略は。
落合 まずは国内中心で展開していきます。国内には多くのチューブメーカー様がいます。そこでメーカー様に試して頂き、フィードバックをもらいながら、情報収集に取り組んでいきます。将来的には、海外のTier様への材料供給も視野に入れています。
今回開発したチューブを市場に投入することで、当社はPA12の単層チューブやMLT8000シリーズでカバーできないガソリン車の高温のラインや燃料電池車の領域もカバーできるようになり、ポートフォリオの幅を広げることができました。
冷却配管用多層樹脂チューブは、5月に開催された「人とくるまのテクノロジー展」で初披露しました。展示会では引き合いも多く、まずは自動車関連分野で、しっかりと実績を作ってきたいと考えています。
*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
製品開発・研究開発員 落合拓哉氏
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