施設探訪 ポリプラ・エボニック テクニカルセンター
大塚弘己テクニカルセンター所長
高付加価値な材料を国内の顧客に提案 顧客の期待に応えられるサポートを目指す
エンジニアリングポリマー分野での№1を目指すポリプラ・エボニック(本社東京、金井産社長)は、1970年にドイツのヒュルス社(現エボニック社)との合弁企業として設立され、ポリアミド12樹脂、PEEK等の高品質で優れた機能性樹脂を開発、販売する。同社の研究開発を行う拠点が、ダイセルの網干工場(兵庫県姫路市網干区)内にある同社のポリプラ・エボニックだ。前半部分では、2020年11月にテクニカルセンター所長に就任した大塚弘己氏に、就任にあっての思いや同センターの課題などを尋ねた。後半では、同センターについて紹介する。
◇所長の就任について。
2020年11月に就任して、12月に金井社長以下の部門長が集まり、喫緊の課題から短期や中期の成長戦略などを話し合う計画だったが、コロナ禍で延期になり、今年5月にようやく実現した。就任して約1年半が経過したが、自分自身が成長すれば、戦力として役立てる部分もあるはずだ。ポリプラエボニックのなかで、研究開発における適応力や突破力の向上につながるように、日々精進している。
◇前職について教えてください。
前職のポリプラスチックスでは、射出成形の分野で自動車の案件が多かった。また、ポリプラスチックスはPOMやLCP、PPSなどの高付加価値の機能性樹脂の製造や販売を展開し、数量が多く、手離れが良い開発活動を行っていた。
最近では、マーケットインという言葉があるが、ポリプラスチックスは以前から、お客様に寄り添い、お客様の顕在的なニーズや要望を満たし、製品を開発してきた。つまり、マーケットインという言葉が使われる前から、ポリプラスチックスは実践していたと言える。
一方、ポリプラエボニックも付加価値の高い樹脂材料を扱っている。ただし、ポリプラスチックスよりもニッチな場合がある。そこで、ポリプラスチックスが行っていたマーケットインのようなビジネスモデルをポリプラエボニックで展開していくことが重要だと考えている。たとえば、ポリプラエボニックは、フィルムやシートも扱うが、ペレットをさらに強化していくことで数量を確保できる。そのために、できるだけお客様の要望に対しては全て対応していくことが重要だ。マーケットインを行うなかで、ポリプラエボニックの材料を提案していきたい。
◇技術や開発面について。
親会社のエボニック、ダイセル、ポリプラスチックスの人材をいかに活用できるかが大事だと思っている。私はポリプラスチックスのつなぎ役として、ポリプラエボニックの開発の幅を広げていきたい。
◇コロナ禍での仕事の変化は。
コロナ禍で、オンラインを活用することが増えた結果、コミュニケーションの頻度が高まった。
今までは、同じ日に技術会議や遠方のお客様との打ち合わせが同時にできなかったが、WEB会議を上手く使いこなすことで、業務効率が上がった。その結果、DXの推進にも繋がっているのではないか。
◇現状の課題は。
材料のペレットの分野で利益を生み出すことがカギであり、確かにペレット以外のフィルムやシートなどの分野も伸びているが、まだまだ改善していく余地はある。今後、さらに品質を高めて競争力をつけていくことが、喫緊の課題だ。
◇今後の方向性は。
ポリプラエボニックの社風は自由闊達。テクニカルセンターも風通しが良く、技術集団と言える。また、我々が扱う製品はドイツの付加価値が高い材料だ。ベンツなどを販売しているYANASEのスローガンで「いいものだけを世界から」があったが、我々の良い材料を国内のお客様に提案し、お客様の期待に応えられるサポートをしていく必要がある。その結果、全体のクオリティが向上し、会社の発展に繋がる。そして、部署が大きくなり、対応力も高くなり、良いスパイラルをもたらすだろう。
(小見出し)―テクニカルセンターの紹介―
テクニカルセンターはR&Dを担う、人間で言えば頭脳の根幹ともいえる部門である。
PA12やPEEKの材料開発用に、押出や射出成形などの設備の他に、融点や結晶化温度の測定に使用するDSC(示差走査熱量計)などの分析機器を設置している。
カテゴリーごとに分けられた実験室には、材料の特性や用途に応じた評価設備があり、ペレットやパウダーだけでなく成形加工品を観察する顕微鏡類、物性の測定装置など、幅広い特性評価に必要な設備が用意されている。また、摺動性や耐熱・耐候性、クリープ試験なとの長期試験も実施できる。
さらにここでは、ポリマーTECH14号で紹介した冷却配管用多層チューブの試作も可能である。この試作機では、最大5層の多層樹脂チューブを製造することができるが、親会社エボニックのハイパフォーマンスポリマー事業部の研究開発7拠点のなかで、ドイツと日本だけに同設備が設置されているという。 特徴は、量産と同等レベルの生産能力を持っていることであり、量産機レベルのスペックを持った試作機として活用されている。 現在、同設備を使ってメーカーの樹脂チューブ開発をサポートするほか、国内自動車メーカーに樹脂チューブの採用を促していくとしている。
*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。
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