専門技術団体に訊く11 団体インタビュー 日本スチレン工業会 出村公明専務理事

2023年08月31日

ゴムタイムス社

専門技術団体に訊く11 団体インタビュー

日本スチレン工業会 出村公明専務理事


スチレン工業会の健全なる発展を図る
プラスチック資源循環戦略のPSWGに注力

 日本スチレン工業会は、「スチレン工業の健全なる発展を図り、経済文化の向上に貢献する」という目的で活動しています。同工業会の専務理事の出村公明氏に沿革や活動内容、スチレンモノマー(SM)やポリスチレン(PS)の現状、最近のトピックスについて尋ねました。

◆同工業会の概要について

 国内のポリスチレンの生産は、1950年代に海外からの技術導入により、工業化されました。その約10年後の1969年に、当工業会は創立し、50年以上の歴史があります。創立当初から「スチレン工業の健全なる発展を図り、経済文化の向上に貢献する」という目的に沿って活動をしています。

 会員はスチレンモノマー部会とポリスチレン部会で構成されています。
ポリスチレン部会は、DIC㈱様、東洋スチレン㈱様、PSジャパン㈱様の3社、スチレンモノマー部会は旭化成㈱様、出光興産㈱様、NSスチレンモノマー㈱様、デンカ㈱様の4社で、計7社が会員となっています。会長にはPSジャパン㈱社長の顕谷一平氏、副会長にはデンカ㈱執行役員の原敬氏が就任しています。管轄は経済産業省製造産業局素材産業課です。

◆事業活動について

 当工業会には総会、合同理事会があります。更に組織体制として、ポリスチレン部会には、技術委員会、環境・広報委員会、企画委員会があります。また、スチレンモノマー部会には技術委員会と企画委員会があります。各委員会は年度計画に沿ってテーマを決めて活動をします。

 各委員会で安全衛生・環境影響・規格などに関する調査を行い、レポートとして共有するほか、ホームページで紹介するなど広報活動にも努めています。とくに、ポリスチレン部会とスチレンモノマー部会共通の活動として、安全衛生委員会があります。これが当工業会で一番力を入れている活動となります。

 また、スチレン工業や製品に関する情報提供として、スチレンモノマーとポリスチレンの生産をはじめとする内需、輸出、出荷を掲載した統計資料を作成し、報道機関に提供しています。この統計資料は、創立当初からの統計データを収集しており、日本におけるスチレン工業の歴史がわかるようになっています。

◆国内のスチレンモノマーとポリスチレンの現状は。

 国内の生産能力について、スチレンモノマーは161万4000tです。多い時は、生産能力が300万t程度ありましたが、現在は約半分までに減少しています。またポリスチレンの生産能力は、スチレンモノマーに対して約半分の86万3000tとなっています。

 ポリスチレンの歴史を振り返ると、その用途は、大きく変化しました。日本の高度経済成長期では、ポリスチレンはテレビ、洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどの電気・工業用で多く使用されていましたが、1990年代以降、家電が中国や東南アジアで作られるようになり、電気・工業用は約1割程度になりました。現在は3分の2が食品包装用として使用されるようになっています。
 ちなみに、2022年の年間生産量は、ポリスチレンが65万3800tで21年比9%減、スチレンモノマーは154万2200tで21年比21%減となっています。

◆活動内容について

 JIS規格の改定等、各種標準化への対応をしているほか、 REACH規則など化学物質問題に関する情報収集と行政への対応も行っています。
 ポリスチレンやスチレンモノマーについて、一般消費者によりよく理解していただけるように、「よくわかるポリスチレン」のWEBサイトを作成し、ポリスチレンやスチレンモノマーについて幅広く普及活動を行っています。

 また当工業会では、APSEM(Asia PS Environmental Meeting :アジアPS環境会議 )を1990年から開催しています。
 APSEMは、昨年、一昨年はコロナのためWEBで開催されましたが、今年は5月にシンガポールで開催しました。APSEMでは、参加国とのスチレンモノマーやポリスチレンの需要と供給などの情報交換や化学物質に関わる規制動向についての情報交換がきるため、とても有意義な会議となっています。今回は日本から会員企業、事務局合わせて11名が参加しました。海外の活きた情報を入手する重要な活動のひとつになっています。

◆最近のトピックスは

 日本プラスチック工業連盟が取り組んでいる「プラスチック資源循環戦略」に、2019年から当工業会はPSWG(ポリスチレンワーキンググループ)として参画しています。
 目的は、「ポリスチレン製品がすでに材料リサイクルされていることや、原料であるスチレンモノマーに戻してリサイクルできることをPR・実証し消費者に浸透させること」です。このワーキンググループでは、①3Rの徹底、環境配慮設計、効果的、効率的リサイクル、再生素材利用促進、②BOPS流通全体像の把握、回収、リサイクルの拡大、③識別表示、リサイクル認証制度に関わる課題の解決、④家庭から排出されるPSの回収・リサイクルの拡大、⑤事業者から排出されるPS、EPS資源の回収・リサイクルの拡大と高度化、⑥使用済みPSの効率的なリサイクル方法の検討など、6つのテーマに取り組んできました。これらのテーマに沿った活動を行い、活動から得られた課題とその原因をまとめ、昨年11月末にはPSWGの進捗状況を発表し、報道関係者様との意見交換会を開きました。
 2023年以降もこれまで得られた課題を整理し、主たるテーマを「啓発」と「回収」に絞り込んで活動を継続して行こうと考えてます。「啓発」では、PSの有用性とリサイクル性の良さを可能な限り定量的にわかりやすくまとめ、消費者、行政、マスコミ等に発信して行くことを考えています。また、「回収」では使用済のプラスチックからPSを分別、回収する際に必要な設備やコストを推定し、使用後のより早い段階から分別、回収を行うことで全体のコストを低く抑えつつ、PSの回収、リサイクル率の向上が図れる事を見える化して行きたいと考えています。

*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。

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