活躍するリケジョ013 旭化成㈱
環境ソリューション事業本部・合成ゴム事業部・合成ゴム技術開発部 京美紀さん
潜在的なニーズをくみ取れるような開発を目指す
製品のロングライフ化やリサイクル化にも注力
◆現在、携わっている部署について教えてください。
所属する部署は、合成ゴム技術開発部です。部署全体として、スチレン・ブタジエンを原料とした製品の研究・開発を行っています。製品は、合成ゴムであるS-SBR(溶液重合スチレン・ブタジエンゴム)の「タフデン」や、TPE(熱可塑性エラストマー)のうち、SEBS(スチレン系熱可塑性エラストマー)の「タフテック」があります。SEBSは、輸液バッグ用フイルムや医療用チューブ等に多く使用されています。
そのほか、SBS(スチレン系エラストマー)の「タフプレン」「アサプレンT」では、道路アスファルト改質剤用途や粘接着用途向けに使用されるなど、様々な製品を手掛けております。
◆どのような仕事を担当されていますか。
私は、これらの材料を使った製品開発やテクニカルサービスを行っており、主にタフデンに関わっています。タフデンは、タイヤの地面に接するトレッド部に主に使用されています。またフットウェア用途では、タフデンは地面と接するアウトソールで使われています。そのほか、工業用向けや樹脂改質剤向けに活用されています。
このうち、私はフットウェア用タフデン開発のチームリーダーとして携わっています。フットウェア用タフデンの開発において、まずお客様に出来た製品を紹介し、お客様からフィードバックをもらいます。それを開発に役立てています。また、お客様との相違があった場合には、その製品特性を理解していただけるように伝える一方で、測定法が違う時には、改めて要因を突き詰め、より良い製品になるように開発を進めています。
私のフットウェアのチームは3人で活動をしています。チームリーダーの役割として、私がお客様の生の声を聞き、週1回チームミーティングを開いています。そこでは、お客様の情報を共有するほか、意見交換などを行い、今後の方向性を決めていきます。アウトソールは、唯一地面に接する重要な部分です。とくに「滑らない」という点が、開発する上での大きな要求特性になっております。お客様のなかで、「アウトソールの性能を高めたい」という要望に対し、新しい材料をお客様にご提供することで、高付加価値な製品を作っていきます。
◆仕事のやりがいを感じるときは。
私自身が考える合成ゴム技術開発部の特長のひとつは、他の部と比べて、主導的に動くことが多いことです。もちろん大変なときはありますが、工場試作が成功したときに、ものづくりへの喜びを感じます。また、工場スタッフが「良いものを作りたい」、「試作を成功させたい」という熱い思いを感じられるため、そこにも製品開発へのやりがいも感じます。
そして、私が開発している最終製品が身近な製品のため、私の開発した素材が製品になると思うと、そのときにもやりがいも感じますね。
◆仕事をする上で、心がけていることを教えて下さい。
コミュニケーションを密に取ることを心がけております。コロナウイルスの感染拡大はだいぶ落ち着いてきましたので、お客様のフィードバックの面談などは出来るかぎり対面でコミュニケーションを取るようにしています。
また、 技術開発部の場所は製造部とも近いため、意見のやり取りをきちんと行うようにしています。
そのほか、個人的なことですが、現在、時短勤務をしているため、仕事は一人でできることは限られています。そのため、当たり前ですが、相手に仕事の依頼をするときや、仕事を代わりにやってもらったときに、感謝の気持ちをきちんと伝えることが重要だと思っています。
◆学生の時、理系の道に進んだ理由は。
私は中学受験をしましたが、中学受験の理科の範囲は、生物・地学・物理・化学があり、化学の問題が一番やっていて楽しかった記憶があります。高校の有機化学の授業時、組成式は一緒でも構造が違うだけで、違う物質や性質になり、無限の可能性があるという担当の先生のお話を聞き、それに感銘を受け、化学の道に進みたいと思いました。大学は高分子の研究室に所属し、ラジカルとイオンを同じ分子内に持つブロック共重合体の合成に関する研究を行っていました。研究は、なかなか上手くいかなく、そもそもできるのかどうかの不安との戦いでしたが、最終的には成果として論文を発表することができました。その研究を諦めなかった姿勢が、今の仕事でも役立っています。
◆現在のお仕事を選んだ理由を教えてください。
就職活動をする際に、私は文系関連の職業で働いている姿が想像できなく、理系関連の職業で働いている姿がしっくりくると考えていました。その時に、旭化成の企業説明会で、旭化成が多角化経営を行っていると聞きました。多角化経営に魅力を感じ、もし私が入社したら、いろいろなことに挑戦できるのではないかと思いました。また、就職面接の感触も一番受け応えができた会社が旭化成でした。
◆入社されてからの職歴を振り返って。
入社当時の一番の印象は、学生時代の実験では、1グラムなど少量を扱うフラスコレベルでしたが、実社会の研究は、キログラム、工場で作ればトンレベルで、そのスケールの大きさに驚きました。
今までの職歴を振り返ると、最初は、タイヤの開発に携わっていました。ちょうど工場試作のタイミングで産休と重なってしまい、工場試作から製品化まで携われなかったことが残念でした。そして、産休から復帰してから、フットウェアの実用化に向け、工場で試作をする機会がありました。製造部と連携して試行錯誤しながら、試作まで持ち込めました。現在は、実用化に向けて進めているところです。
◆職場環境について教えてください。また今後どんな開発をしていきたいですか。
職場環境は、わからないことがあれば、親身に相談に乗ってくれるなど、風通しが良い環境だと思います。また、役職で呼ぶのではなく「さん」付けで呼んでおり、親しみのある環境です。
今後の開発として、抽象的になりますが、お客様が「こういうものが欲しかったんだよね」と言っていただけるように、開発に取り組んでいきたいですね。お客様自身が気付いていない、かゆいところに手が届くような、潜在的なニーズをくみ取れるような開発を目指していきます。
そのためにも、DXを上手く活用して、個々のニーズを効率よく把握することも重要になってくると思います。
また、私には小さい子どもがいるため、子どもたち世代に資源を残してあげたい気持ちもあります。たとえば、製品のロングライフ化や製品のリサイクルに取り組むことで、資源を残すことも可能だと考えています。次世代に資源を残してあげられるような取り組みを強化していきたいですね。
◆休日の過ごし方を教えください。
子どもが小さいため、子どもと休日を過ごすことが多いです。公園に行ったり、将来子どもに本好きになってほしいため、図書館に行ったりしています。
コロナも緩和しつつあるので、長期休みのときには、子どもが好きな新幹線に乗って、活動の範囲を広めていきたいです。
*この記事はゴム・プラスチックの技術専門季刊誌「ポリマーTECH」に掲載されました。